sanuki story project

74運命のおじいちゃん 香川県  あまがきさん
驚いた話 運命的な話
電車に乗り遅れ、駅で次の電車を待っていたときのこと。
隣のベンチに、見知らぬおじいちゃんが座った。カーキのベストを着ていて、ゴシップ誌を入れた紙袋を持っていた、おじいちゃんだった。
「今日、卒業式だったの?」
制服姿だった私に、おじいちゃんはふと訊いた。私は耳に入れていたイヤホンを外し、おじいちゃんを見た。彼は名乗らず、ただ年齢だけ教えてくれた。記憶は確かではないが、69歳になったばかりだそうだった。私は、自分は16歳だと言った。
それから、電車が来るまで時間があったので、おじいちゃんと話をした。私が高校生だという話とか、おじいちゃんがこの間テレビで見た健康にいい座り方とか、いろいろ。おじいちゃんが言うには、あぐらがいいそうだ。私が、でも女の子は足を開いちゃダメでしょう、と言うと、でも健康のためや、とおじいちゃんは言った。
「お嬢ちゃんは夏が好き?冬が好き?おっちゃんは冬生まれやけん、冬やなぁ」
おじいちゃんの質問に、私は自分が答える前に、ある疑問を持った。
「何月のお生まれなんですか?」
おじいちゃんに、そう訊いた。私は2月17日生まれ、つまり冬生まれだった。だから、冬生まれと言ったおじいちゃんに、妙に親近感が湧いたのだった。
「ん、2月やで」
おじいちゃんは言った。運命、といえば大げさかもしれないが、私は驚愕し、それに似た感覚を味わった。
「何日ですか」
高揚する気分を抑え、尋ねた。おじいちゃんが次に言うだろう言葉を、期待していた。
「17日、や」
やっぱり!私は今度こそ、運命を信じた。この初対面のおじいちゃんは、私が生まれるちょうど53年前に生まれたんだ!
私はおじいちゃんにそのことを告げた。おじいちゃんは、「若かったら、これを口実に口説くのになあ」と、笑いながら言った。
やがて電車が来て、別の方向に行く予定だったおじいちゃんとは、お別れをした。
それはたった10分ほどの邂逅だったけれど、私の胸からは未だに彼のことが消えないのである。