sanuki story project

37浪人生と恋、ごめん 香川県  Htojoさん
切ない話 恋愛ネタ・青春モノ
1996年の春、僕は浪人生となった。僕は予備校へ進んだ。祖母が僕のために貯めてくれたお金が使われたことを聞いたときは申し訳ない気持ちになった。
予備校で僕は一人の女の子に出会った。一生忘れない。予備校のクラスで席が前後になった。僕が前で彼女が後ろ。彼女は愛媛県からやってきて寮に入っていた。髪は短く、体型は痩せ型、鼻筋がすっととおり、目は大きい。眉はやや太く緩やかで、化粧っ気はない。ゆっくりとしゃべり、純朴さと優しさが流れ込んでくる。そんな女の子だった。僕が振り返るといつもにこりと笑ってくれる。ついつい授業中、訳もなく振り返った。美人で優しいのに、クラスの誰もその良さに気がついていないことも僕にとって好ましい要素だった。僕は彼女を好きになった。僕は彼女の喜びそうなことはできるだけ試みた。好きな音楽、好きな本、僕は彼女とそれを共有した。彼女も寂しかったのか、僕に好意を持ってくれていたのはわかった。
夏、僕は彼女に勇気を出して声をかけた。告白するつもりだった。授業が終わり、僕は真っ赤な顔をして。声は上ずり、汗がにじんだ。彼女にも僕の緊張は伝わったのか強張った表情だった。2人とも激しく動機していた。心は戻らない時間を刻む。とても、長い間があった、と思う。永遠だ。僕に懺悔を突きつけるには十分な時間。僕は逃げた。人生から逃げた。僕は彼女に気持ちを伝えられなかった。なぜ。友達を紹介したい、僕はそう言った。
「―東條君じゃないんだね――ごめん、そんな気になれない…」
彼女は絞り出すように言った。僕のことは見てなかった。その日を境に彼女とは気まずくなった。彼女は優しいままだったが、僕は自分が逃げた事実を認めたくなかった。
その冬、受験真っ只中、僕はJR栗林駅に電車の中で彼女に出会った。僕は予備校を秋に辞めていたので、彼女とは本当に久しぶりだった。短かった髪は長く束ねられ、赤いピーコートが似合っていた。とても大人っぽくなっていた。彼女は僕に気がついてくれ、話をした。彼女は志望校への試験がうまくいかず、予備校に相談に行く途中だった。短い時間だった。5分にも満たない。お互いがんばろうね、彼女はそう言って電車を降りて去っていった。電車が動き出す前に彼女は見えなくなった。僕は彼女の後姿を最後まで見送った。彼女とはそれが最後。僕は彼女のことが好きだった。本当です。