sanuki story project

100出会い 香川県  T.Iさん
不思議な話 運命的な話
あれは30年以上も前。まだ高松空港が林町にあった頃の事。高校卒業して一年浪人し、東京の大学に進学した僕は何となく想像していた学生生活との違いに違和感を感じ、結局半年で退学してバイト生活の毎日を送っていた。そんなある日、高校時代の友人から同窓会の知らせが届き、僕は久しぶりに高松に帰ってきた。家の敷居は跨いだものの何となく気まずい雰囲気は否めず、ただ久しぶりに会った友人とは、それぞれの今の生活や、高校の頃の思い出話に花を咲かせたり…中には僕の退学の話に「考え直した方が良いよ。」と忠告してくれた友人も居たが、すでに決心はついていたので「新規一転、新たな気持ちで…。」と言ってその日は盛り上がった。
 予定ではその日の最終の新幹線で帰京するつもりだったが、つい長居をしてしまい、間に合わなくなって翌日一番の航空便で帰ろうと、早起きをして空港へ。しかし、キャンセル待ちの長い列に、これじゃダメだと飛行機を諦め、空港から高松駅へタクシーをとばした。
 運転手のおじさんに「こちらへは、観光で?」などと聞かれても、心は上の空。「いえ、キャンセル待ちが多くて席が取れそうもないんで…。」「それは大変ですね。ではこれからお仕事ですか?」と運転手さん。「ええ、昨日、こちらで同窓会があったもので…。」「じゃあ、こちらのご出身で?」「ええ、まぁ。」その後、僕が高松から東京に出ている話や、運転手さんの家族の話をしているうちに、僕の出身校の話になり、その中に松野先生という先生の話が出てきて、たまたま息子さんと僕の元副担任が同じ先生だという事が判明した。地方の県庁所在地規模の街でもそんな巡り合わせもあるのかなと思ったりした。いや、しかし偶然はそれだけではなかった。ちょうど、栗林公園前の赤信号で止まっていたとき、僕らの乗ったタクシーの前を自転車に乗った松野先生が渡っているではないか!僕は思わず指さしながら「松野先生!」と運転手さんに向かって叫んだ。運転手さんも松野先生を見つけて、僕の方へふり返った。そして僕と運転手さんはしばらく見つめ合い、そして大声で笑った。その日はたしか平日だったはず。なのに学校からも1km以上離れているこんな場所でいったいどうして?と思いながらも僕を乗せたタクシーは高松駅へ急いだ。
 そして、3人それぞれの1日は始まった。一見、何の関係もない人達の不思議な縁について考えた出来事だった。