sanuki story project

44みかんとカラス 香川県  どんさん
笑える話 家族ネタ・その他
みかんを買いに母と坂出の産直へ出かけた。ここは甘い金時みかんで有名な王越。山の斜面には潮風と日光を浴びたまるい果実が鈴なりだ。袋いっぱいのみかんを買い、ドライブついで近くの五色台温泉につかって帰ることにした。紅葉にはまだ早いが、代わりに一面のみかん葉の緑と橙色が目に鮮やかだ。
しかしそれもつかの間、カーブをひとつ、またひとつ越え登るごとに霧が立ち込め次第に濃くなってきた。みかん畑は遥か眼下、もう影も形もみえない。太陽の光も遮られた。
視界の悪さにも慣れてきたころ、右前方に一本の枯れ木が目に飛び込んできた。葉一枚ない細枝に霧の中でもはっきりとわかる黒いカラスが一羽とまっていた。カラスなんてどこにでもいるものだが、地上のそれよりも禍々しく感じるのはうら淋しい枯れ木と立ち込めた霧のせいだろうか。はたまた同じ五色台に鎮座する無念の死を遂げた崇徳天皇の思念のせいか。
カラスは濃い霧の向こうをじぃっと見つめ微動だにしいない。
「さっき見た?あのカラス。」
次のカーブへさしかかるころ、助手席の母が声をかけてきた。
「枯れ木のカラス?」
「そうそう、細っそい枝の先に止まってた目つきの悪いカラス。」
目つきまではわからないが助手席の母も同じカラスを見ていたらしい。
「なんか映画にでてきそうな場面よな。不気味に霧の中に浮かぶカラスやなんて。」カーブをまがりながら答えた私に
「あんたもそう思った?お母さんもやわ。こういうの映画にあったやろ?じぃーと獲物狙ってたカラスがバッッッ!と枝から飛び立って・・・なんやったかな~あの映画。」
うんうん、わかるで。題名も内容もわからんけどイメージわかるで。モノクロのスリラー映画とかにでてきそうなやつやろ。
「なんやったかなあ~あのアニメ。」
「・・・えっ?アニメ?ヒッチコックとかじゃなくて?」
「アニメや。有名な。ようけ妖怪でてくるやつ。」
妖怪??
「せやっ!あれや!千と千尋のなんとかのっ。カラスおばさん!」
「・・・・・湯婆婆?」
「せやせや!湯婆婆や。カラスが枝から飛んだらババアになるやつ。あれ思い出すわあ。あ~思い出してすっきりや~。」
血の繋がった実の親子、過剰に余った脂肪体型もよく似ている。なのに
同じ風景を見てこうもちがうものだろうか。
視界の霧も晴れたころ、車は温泉宿の入り口に着いたのだった。