sanuki story project

208「The」 香川県  匿名希望さん
驚いた話
中学3年生の春、新しい教室で僕はA君と出会った。A君を含めた7人くらいでいつも一緒にいた。A君はとても良い奴だ。ただそんなA君に対して僕ら友達は納得できないところがあった。それは通常なら「はい」というところを「The(ザ)」というのだ。僕たちが名前を呼べば「The」と返ってくるし、先生にあてられても「The」と返事をする。とにかく返事をするときに「The」というのだ。でも、そんな疑問を抱えていたのも最初の頃だけで、時が経つにつれ、僕たちも慣れてしまっていた。
卒業シーズンを迎え、その日は卒業式の予行練習が体育館で行われた。先生が一人一人名前を読みあげていく。A君の名前が呼ばれた。「The」A君はいつも通りの返事をした。学年主任の先生や他の先生が注意をする。ちゃんと「はい」と言いなさいと。それでも「The」とA君は言う。先生が怒る。このやりとりがしばらく続いた。本番はちゃんと「はい」と言うんだぞと学年主任の先生が釘をさした。僕は、A君にとっての「はい」は「The」なんだから無理無理と内心ずっと思っていた。そして迎えた卒業式当日。僕らのクラスが名前を呼ばれ始めた。A君の名前が呼ばれた。
A君は「はい」と大きな返事をした。「えぇえぇぇぇえぇ!?」僕を含めて5人くらいが思わず声をあげてしまった。この1年間の「The」はなんだったんだろう。あれには相当驚いたのだが、真相は聞くことなく、僕らは別々の高校へ入学した。一体なんだったのだろう。。