sanuki story project

351父と僕 二人きりのウニの味 東京都  匿名希望さん
感動した話
父は転勤族で僕が生まれた頃福岡に住んでいた家族は、小学生に上がる頃に香川県に帰ってきた。
これは僕がまだ香川県に住んでいた時の話。
小学生の頃の僕は兄にべったりで同級生よりも兄と遊ぶ時間の方が長かった。
両親はそんな僕たちを週末になるとキャンプやアスレチックなどに連れて行ってくれた。
しかし、こと躾に関してはとても厳しかった。
箸の持ち方から始まり、食べ方、喋り方まで細かく注意され、食べ残しは一切許されなかった。
いわゆる父は威厳のある怖い父だったが、自作のPCでゲームを遊ばせてくれたり、
自宅庭の壁に一緒に絵を描いたりと全く違う顔も持っていた。

そんな父と(記憶の中では)一度だけ二人きりで海に出かけたことがあった。
いや、恐らく僕の性格からして大嫌いだったスイミングスクールをサボるために父に無理やりついて行ったのだと思う。
父との車の中での会話は全く覚えてないが、いつもとは違う助手席からの街の景色に感動したことは覚えている。
海に着くと父はウェットスーツに着替えて海の中に飛び込んだ。
父の他に確か会社の同僚か、同級生か、何名か知人がいたと思う。
ゴツゴツとした岩肌で一人遊びをしながら父を待つ。
すると僕を呼ぶ父の声が潮風に乗って聞こえてきた。
ゴーグルを外した父の目は優しく、手にはウニを持っていた。
海から上がりそのまま僕の横に座る父。
殻を開けて身をほぐし、食べさせてくれた。

子どものバカ舌でも「美味しい」と分かった。
僕はあの時の味と想い出を一生忘れないだろう。

言わずもがなだが、その後、父は早々に切り上げて僕をスイミングスクールに連れて行った。