sanuki story project

327遠い夏の日 香川県  さぬゆきさん
感動した話
 香川県三豊市の津島に、子供の守り神として信仰を集める津嶋神社がございます。普段は、橋が架かっていないので渡ることができませんが、夏季大祭のある毎年8月4日と5日の二日間だけ、橋が架けられ渡ることができるのです。
 私が小学生の頃ですから40年以上前のお話でございます。当時、島に渡る橋は不揃いな長方形の木板を並べ架け、所々に隙間が空いており、夜渡る時はその隙間から暗黒の海が覗いたりしました。私の母親は、昼間仕事をしていましたので、津嶋神社のお参りはいつも夜になり、この暗黒の海が覗く簡素な橋を渡るのが怖かったのを覚えています。
 「遠い夏、8月5日の夜」
母親:今年もたくさんの人が参ってるね~さぁ橋渡るよ~手をつないで~
友行:暗くて怖いよ~
母親:大丈夫、大丈夫、手を離さないようにね~
友行:うん (カタコト カタコト)
友行:わっ!! (橋から落ちそうになる友行)
母親:ほらっ友行、しっかり手を握って (カタコト カタコト)
母親:さぁ着いたよ~、しっかりお参りしなくちゃね~
     友行が健康で、みんなから愛される大人になりますように
友行:お母さん、ありがとう
 「令和元年、8月5日の夕刻」
友行:何もかも、もうだめだ、耐えられない (今、友行は人生の崖っぷちに立たされていた)(ふらふら彷徨い歩いていると、目の前に津嶋神社が・・・)
友行:子供の頃はよく渡った、あれから何年が経ったのか (友行はふらふらと渡り始めた)(カタん コトん カタん コトん)(橋の中間辺りを渡っていると)
友行:わっ (橋から落ちそうになったその時、周りの雑多な音が聞こえなくなり、静まり返った)
天から母の声:ほらっ友行、しっかり手を握って
友行:かっ、かあさん・・・ (友行は手に温もりを感じ、立ち止まった)
天から母の声:まだまだ子供なんだから、しっかりお参りするのよ
友行:ありがとう・・・かあさん (友行は神社の方を見ると、ゆっくり歩き始めた) (カタコト カタコト)(橋を渡り切り、神前に立った)
友行:かあさんと参ったあの日の事を思い出したよ (お参りを済ませ振り返ると、背中に温もりを感じ、空を見上げると一番星が)(友行の瞳に光が射した)
友行:まけるな (少しずつ周りの雑多な音が聞こえだし、友行は歩き始めた)
友行:神様、ありがとう さぁ、みんなが待ってる