sanuki story project

234天使のいたずら 奈良県  廣敦子さん
嬉しい話 恋愛ネタ・青春モノ・運命的な話
一郎は(二十五才)は、出張で初めて小豆島を訪れた。

一度は行ってみたいと思っていた。天使の散歩道エンジェルロード、仕事を一段落させ、出掛けてみる。土庄港からバスに乗ってやって来たが、小降りの雨だが止みそうにない。空を見上げたが、雨雲は動こうとしなかった。目に入ったゴミ箱の中に花柄の傘が捨ててある。取り出してさしてみる。骨は一本折れてはいたが、どこも破れてはいない。

その傘を戴くことにした。エンジェルロードに向かって歩いていると、頭にハンカチをのせ、信号待ちしている女性が居る。一人旅の様子。

一郎は一瞬、傘に目をやり、彼女に「どうぞ」と傘を差し出す。
突然、頭の上に傘をさし出され彼女はビックリするが、その傘をみて、又驚く。道の駅ふるさと村で失くなっていた傘だ。柄のところに名前のシールも貼ってある。「LOVE」…と。彼女の名は「愛子」

「あのー、この傘どこで?」と聞いてみた。「道の駅の傘立てに入れて置いたのですが、失くなっていたので、それと同じ物なので…」
「そうなんですか、ゴミ箱に捨ててあったので…お返しします」と言うと、愛子は笑いながら「これからエンジェルロードに行こうと思います。もしよろしければ、この傘でご一緒に」と遠慮勝ちに誘ってみた。

花柄の傘は二人の楽しい会話を包んで揺れていた。二人を濡れた砂道を歩いた。
散歩道の真ん中で立ち止まり、お互いの顔を見て笑った。急いで戻らないと砂道は消えてしまう。天使の悪戯なのか、一本の傘の骨はキューピッドの持つ愛の矢だったのかも知れない。