sanuki story project

158青い傘のお遍路さん 香川県  なつきさん
嬉しい話
[あらすじ]
小学校の帰り道、傘を持っていない私に傘を貸してくれたお遍路さんのお話。
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私は小学生の頃、傘をささない子供だった。
その日の下校時は雨、小降りよりちょっと強いくらい。
『このくらいならまだまだまだ!』なんてちょっとした我慢大会があの頃の私は気に入っていた。だから雨の日もけっこう好きだった。
集団下校でもなかったから、私は一人ちょっと浮かれながら帰り道を歩く。
その途中、傘を差したお遍路さんを見つけた。青い傘に、オジさんじゃなくお兄さんと呼ぶのが合っているような、そんなお遍路さんだった。
「お遍路さんにはちゃんと挨拶しなさい」というのが私の地元の教えだった。
私もそれが当たり前だと思っていたから、教えの通り、
「こんにちは!」
と笑顔で挨拶。お遍路さんもこんにちはと返してくれる。
普段ならそれだけだけど、そのお遍路さんは私に質問してきた。
「傘はささないの?」
その質問は時々されるものだった。そういう時の私の答えは決まっていて、
「忘れたの」
と返すのがお決まりだった。
そうなんだと言って、青い傘のお遍路さんは私が歩いていた方向に進む。私も帰り道に進んだ。
しばらく行くと、ふいに足音が聞こえた。振り向くとさっきのお遍路さんが、水しぶきをたてながら私の方に走って来ていた。
私はびっくりして立ち止まる。お遍路さんは私の前まで来ると、息急き切って言った。
「傘貸すよ!返さなくていいから」
お遍路さんは私に青い傘を渡す。思わず受け取ってしまった私が何か言う前に、お遍路さんは元の方向に走って行ってしまった。
雨を腕で庇いながら走り去るお遍路さんの背中を、私は呆然と見送った。
家に帰ると兄がすでに帰っていて、事の顛末を話した。私から話を聞いた兄は借りた傘を返そうと、走ってくれたけどお遍路さんは見つからなかったらしい。
私は雨に濡れながら帰るのが好きだったけど、それを心配して傘を貸してくれたお遍路さんの優しさも嬉しかった。
次の日、雨は上がり空は快晴。玄関先には干すために開かれた青い傘がある。私はそれを見て、いつか返してありがとうって言いたいなと思いつつ学校に行くのだった。