sanuki story project

107キウイがやって来た日 香川県  辰ちゃんさん
笑える話 その他の食べ物
 それはまだ昭和の時代が50年を迎えるかどうかというくらいの頃のある日の事だった。
 その頃高松国際ホテルは天皇陛下ご来県の折にはお泊まりになられる県下一のホテルであったのだがその東側に琴電が経営するスーパーマーケットがあった。昭和40年代後半のボーリングブームに乗り、ボーリング場として使っていた建物を改装してスーパーマーケットにしたものだった。僕たち家族は、自宅から一番近かったという事もあり、よくそのスーパーを利用していた。
 ある日、父、母、僕と妹の4人は連れだってそのスーパーを訪れた。スーパーマーケットはたいてい入口付近には野菜、果物といった生鮮食料品を置いてあるものであるが、僕はその日野菜コーナーの片隅に何やら今までに見た事の無い物体を見つけた。キウイと名付けられたその物体は茶色く、レモンを少しまぁるくした様な形をしていて、しかも全体に固く短い毛の様なものが生えている。僕は母に尋ねた。「母ちゃん、あれなぁに?」母「キウイって書いてあるんやからキウイやろ。」僕「キウイって何?」母「たぶん、芋の一種やろ。」僕「え〜?そやけどバナナとパイナップルの間に置いてあるで〜。」母「なら、店の人に聴いてみたらええやろ。」僕「すいません、キウイって何ですか?」店員「南国のフルーツでございます。」僕「フルーツやて。買うて。買うて。」母「こんなに小さいのに300円もするで!」僕「一つでええけん買うて。」母「父ちゃんに聞いてみ。」父「1つ買うてみたらええやろ。」こうしてキウイなる果物は初めて我が綾にやって来た。
 僕「切ってみよ。」母「仏さんにあげてからや。」そしてキウイは2日間仏壇に供えられた後、やっとまな板の上に乗った。「これってどうやって切るん?」「初めに皮むくん違うん?」「フルーツやったら、やっぱり冷やした方がええん違うん?」かくして、それぞれが意見を出しあった後、翌日まで冷蔵庫で冷やされたキウイは、僕たち4人と祖母を含めた5等分にメロンのように切られ、小さな皿に盛られた。「この黒い種みたいなんは捨てないかんわなぁ〜。」「なんや、食べるとこ、ほとんどないやん。」「酸っぱ!!全然、甘ないし…300円もしたのに。」母「もう、二度と買わん!!」
 こうして、次に我が家にキウイがやって来るまで、あと数年の時を経なければならなくなったのであった。