sanuki story project

90細く長い友情 北海道  だろっく和泉さん
その他
25年前、私は北海道の田舎で看護学生をしていた。北海道からあまり出たことがなかった私は一念発起で「南に行こう!」の旅行に出た。忙しい看護学生の夏休み冬休みのバイトでのお金は「各駅停車の電車で四国まで」導いた。長い電車の旅。だんだんどんどん暑くなっていった。私の今夜から4日間の宿泊先はまたしばらく船に揺られて着いた小さな島だった。看護学校の先生の紹介だった。長い旅行におしりも心も折れかかった。青松園というところ。施設の中に入って腰が引けた。鼻のないおじいさん、目玉のないおじいさん、指もない…。ライ病の後遺症を持つ人を世話する施設だった。ライ病患者が世間から嫌われ政府がこの島に集めたのが始まりで、みんなそのままそこに住み続けているのだそうだ。施設に住んでいる人たちの義眼を洗ったり食事の介助をすることでただで宿泊させてもらった。初めは怖く見えた人たちもみんな世話好きでいい人だった。貧乏学生の世話をしてやらなきゃ!とみんな意気込んでいるようにも見えた。私はすっかりお世話され、みんなの親切に甘えた。ビールをおごってもらったり、カラオケを一緒に歌ったりしているうちに、「みんな人間なんだ」と思った。そこで磯野さんというおじさんとお友達になった。16歳から島に住んでいるのだそう。家族との縁も切ったのだと。目の悪い磯野さんに私は北海道からビデオレターを送り、彼の耳に届いた初めての雪を踏みしめる音が磯野さんを喜ばせた。それ以降、どこかに行くたび、季節が変わるたびビデオを送っている。飲んでいないと恥ずかしがりの磯野さんは自分の出場したカラオケ大会のビデオを送ってくれる。たまに電話をする。磯野さんが飲んでいないときはあまり話が進まない。たまに手紙を書く。介護士さんが読んでくれるのだそう。たまに讃岐うどんが届く。たまにプレゼントを贈る。細く長い友情が私たちをつないでいる。世間から忘れられかけている人たちが四国にはいる。悲しい過去を彼らがなくなってしまう前に、私たちは国が強いた彼らの人生を償わなければならない。