sanuki story project

267透明人間 香川県  透明人間になれる女さん
切ない話
うどん屋さんがだいたい100メートル置きにあること、「かかんきんこんきんこんきんかかん」なんて呪文みたいな方言の言い回しがあること、毎年の水不足が当たり前だということ。

東京にいる彼にわたしは、わたしの世界をわけるようによく地元の話を電話で話した。
「透明人間になれる歩道橋がある」
そんな話もした。
都会と違って利用する人が少なく、高いところから色んな景色を見ているというのに誰もわたしに気づくことがない、透明人間になれる場所。
その話をした時も彼はまたわたししか知らない世界を聞いて楽しそうに笑っていた。
それが二年前の話。

そんな思い出が残る歩道橋を私は渡っている。私はいま透明人間だ。
透明人間が涙を流したとき誰が拭いてくれるんだろう。
この世界で透明人間になれる場所があることを知るのはわたしと彼の二人だけだと言うのに、彼はもうわたしの世界にはいない。