sanuki story project

24秋桜 香川県  匿名希望さん
感動した話 友人ネタ・子ども時代・青春モノ・運命的な話
私には、10代のほとんどを一緒に過ごした友人がいる。
その子は、小学四年の冬に私のいたクラスに転入してきた。ちーちゃんというあだ名の、眼鏡をかけていておとなしい女の子だった。
私と彼女は趣味が合い、すぐに仲良くなった。部活も違ったし、中学に上がってからは同じクラスになることもなかったが、たまにお互いの家を行き来し、いろんな話をした。

私とちーちゃんが同じ高校にあがってから二度目の秋のある日のこと。
その頃の私は、現代文の時間に、教科書を熱心に見ているふりをして授業とは関係のないページを読んでいることが多かった。その日読んだのは、教科書の最後のほうに載っていたコスモスの出てくる小説で、もちろん授業では習ったことのない話だった。
放課後になり、私はちーちゃんと一緒に帰ることになった。
あっという間に落ちてしまう秋の西日をうけて、辺りはオレンジ色に染まっていた。
新川の手前で信号待ちをしていたとき、ふと、土手にコスモスの咲いているのが見えた。私は何気なく、「まあ、きれいな秋桜。」と言った。
それはその日読んだ小説の一節だった。コスモスのことを秋桜と表すのに感銘を受けて覚えていたのだ。
だけどそれは、ただ口から零れただけの、ほとんど独り言のようなものだった。誰かの返事を期待して呟いた言葉ではなかった。しかし、次の瞬間、私は耳を疑った。
「おばあちゃまったら詩人ね。」
ちーちゃんがそう言った。私は目を見張り、絶句した。時が止まったようにすら感じた。彼女の言った台詞は、まぎれもなくその小説の続きだった。
「なんで、知っとん?」
私は驚きを隠せないままそう言った。
「だって、教科書に載ってたもん。暇なときに読んだんよ。」
そうやってこともなげに話すちーちゃんを見て、私は、まるで奇跡を体験したかのような興奮を覚えていた。
それまでもちーちゃんとは、趣味だけでなく「感覚」が似ていると感じることが多かった。けれどこのとき、今までにないくらい彼女を近くに感じている自分がいた。それは物理的な距離ではなく、精神的な距離だった。
ちーちゃんはそれから半年後、父親の仕事の都合で金沢に転校した。

今思うと、思春期の女の子特有のやや気恥ずかしいやりとりだけれど、こんなに不思議な形で他人と心を触れ合ったと感じたのは、後にも先にもそれきりである。