sanuki story project

33「懐かしの電車が運んでくれた明日(みらい)」 埼玉県  常磐の若大将さん
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 私は生まれも育ちも関東の鉄道ファンです。子供の頃乗っていたような、古い電車がまだ現役で走っているということで、夜行列車での一人旅のついでに訪ねたのが、高松琴平電鉄、通称ことでんでした。

 古い電車の音や揺れが懐かしく、目を閉じれば、少ない小遣いをやりくりしながら友達と電車に乗り、写真を撮っていた少年の頃の楽しい日々が思い出されました。しかしそれ以上に心に残ったのが、沿線の穏やかな時の流れと、出会った人々の温かさでした。
 駅のベンチに並ぶ手作りの座布団、電車に向かって駆けてくる人を待ってくれる車掌さん。線路際の田んぼのあぜ道で、カメラを構え電車を待っていると、通りすがりのおばさんがお菓子をくれました。線路が見渡せる歩道橋に立っていると、お婆さんに話しかけられ、「電車が好きで関東から来ました」と答えると「遠くからありがとう」と言ってくれました。

 気付けば、夜行列車で、飛行機で、愛車を乗せたフェリーで、毎月のようにことでんを訪ねる自分がいました。電車に乗ったり写真を撮るのも良いのですが、人との出会いが楽しいのです。ことでんの写真や動画をネットにアップしているうちに、旅先で鉄道ファンの方から声を掛けられるようになりました。築港駅のパブで一人飲んでいたら、地元の方達と意気投合し、はしご酒して二日酔いなんて事も…
 ある日レトロ電車に乗った時の事。車掌さんからもらった記念乗車証を、横にいた見知らぬお婆さんが欲しそうに見ていたものだから、あげてしまいました。あの日私にお菓子をくれた、通りすがりのおばさんを思い出して。記念乗車証、お孫さんの手に渡ったのかな?

 今、毎日の仕事が辛く、人との繋がりに嫌気が差しそうになる事もあります。そんな私に人との繋がりの尊さを教え、人生に彩りと明日への生きる力を与えてくれているのが、本来何の縁も無いはずの、遠い香川の地を走る鉄道なのです。近々また訪ねます!